About Technique | treSensi jewelry works
About Technique | treSensi jewelry works
「花の都」と呼ばれるイタリアのトスカーナにある街、フィレンツェでルネサンスの時代から伝統的な技法でつくられてきたジュエリー。そのスタイルが確立したのはルネサンス期の頃、1500年代半ばといわれています。
当時の金細工師達は、貴金属を溶かし金づちで叩いてジュエリーの原型を作り、糸鋸を使って透かし彫り(traforo)をし、金属の表面に繊細な彫り(incisione)を施していました。
透かし彫りや洋彫りを施されたジュエリーは、「フィレンツェスタイルのジュエリー(Stile fiorentino)」と称され、数百年という永い時代を経て受け継がれてきました。
フィレンツェは、ルネサンス期において黄金時代を迎えたと言われています。当時はダヴィンチ、ミケランジェロなどの著名な芸術家がフィレンツェで活躍しており、絵画や工芸品など素晴らしい芸術作品の数々がうみだされていました。
当時の建造物がそのまま残った美しいフィレンツェの町並みは、「屋根の無い美術館」とも称されています。
宝飾品もまた、当時から絵画や工芸品などと同じように芸術品として扱われてきました。
フィレンツェスタイルの技法を用いて作られた美しいジュエリーは、流行に左右されることなく、多くの人々に永い間愛され続けています。
ルネサンスの頃、金細工師は宝飾品だけでなく、武具や聖具・銅版画などにも彫刻を施していました。後々、銅版画は画家や版画職人が手がける芸術作品となっていきますが、当時はトランプや護符、地図、本の挿絵といった実用品の為の銅版画が金細工師達によって制作されていたそうです。
金属への彫刻はフィレンツェに限ったものではなく、ヨーロッパの他国でも発展していきましたが、フィレンツェでは、ジュエリーへの彫刻に独自の模様や技法などが生み出されていきました。
ジュエリーに施すインチジオーネ(incisione)
日本では「フィレンツェ彫り」という名前で親しまれています。
この技術はカメオや銅版画に彫刻するときに使用するタガネ(彫刻刀のようなもの)と同じものを使用しています。このタガネはイタリア語では「Bulino」(ブリーノ)、フィレンツェでは「Ciappola」(チャッポラ)と呼ばれています。チャッポラは、刃の形や線の太さなどによって使い分けて彫刻します。金属が紙だとしたらチャッポラは鉛筆のようなイメージで、模様を描いていきます。彫刻するジュエリー本体は「ceralacca」(チェララッカ)というイタリアの蝋に固定して彫刻していきます。
treSensi jewelry worksではイタリアフィレンツェで学んだこの技法を用いて全てのジュエリーに一つ一つ彫刻を施しています。
ジュエリーへ彫刻する彫りの模様は、
フィレンツェ独自の模様が伝統的に受け継がれてきています。
フィレンツェ彫りは、タガネを使い分けて様々な模様を彫刻しています。
Girare(回す・回転する)に-ino(小さい)という接尾語がついた言葉の造語で、くるっと回った小さな唐草のことを表現します。唐草を組み合わせて彫刻して面の模様を装飾していきます。
※私は2人のマエストロにフィレンツェ彫りを師事していました。このジラリーノという名称は私が師事していたマエストロの1人が良く言っていた言い方です。その先生だけがそう呼んでいたのでおそらく通称では無いと思うのですが、とっても可愛い名称なので私もそう呼ばせて頂くことにしました。
Granireは「粒上にする」という意味。主に植物の装飾に施します。フィレンツェのジュエリーには、植物の葉をモチーフとするものが多くあります。そのデザインは「Granita」という模様をベースに彫刻してその上から、葉脈を彫っていきます。「Granita」を入れることで、葉脈がキラキラと際立ってきます。
Setaは「シルク」の意味でヘアラインの模様のこと。Rigata(リガータ)という一本の刃に数本の線が刻まれたタガネを用いて、真っすぐ均等に彫刻していきます。鏡面の金属とは違って、光り過ぎずソフトで優しい輝きを放ちます。
millgrain(千の粒)ともいい、小さな粒を並べた装飾です。この技術はフィレンツェに限らず、ヨーロッパのアンティークジュエリーによく見られます。淵の部分にミルグレインをするとよりクラシカルな雰囲気となります
ジュエリーへの彫りにはいくつかの種類があります。代表的なものでは、「和彫り」や「ハワイアンジュエリーの彫り(洋彫り)」などがあります。主に柄やデザインの違いによって、「洋彫り」や「和彫り」などどカテゴライズされています。
ハワイアンジュエリーやフィレンツェ彫りは「洋彫り」というカテゴリーでは同じジャンルとなりますが、ハワイアンジュエリーは今では機械彫りのものが多く見た目はシャープな印象です。
また和彫りは、タガネをおたふく槌という小さな金づちで叩いて彫り進めていくので、ハワイアンジュエリーと同様彫り面はシャープでコントラストが強い印象となります。和彫りは彫る際、片手に小さな金づち、もう一方の手にタガネを持ちます。両手が塞がり、品物を直接手に持つことができないので、彫刻用の台座に固定して彫っていきます。カーブを彫るときは、タガネの角度をコントロールして傾けながら彫刻していきますので、熟練の技術が必要となってきます。
一方、フィレンツェ彫りの場合は、左手に木の棒に固定した品物を持ち、右手にたがねを持ち、掌に押し当ててグイグイと横方向に彫り進めていきます。全て手の力だけでコントロールしており、品物をカーブに合わせて彫りながら動かす事ができますので、カーブをコントロールしやすく繊細な模様を彫ることが可能です。
和彫りやハワイアンジュエリーなどに比べると彫りの深さは浅いのですが「scavare」(スカバーレ)という彫り方もあり、同じ場所に何度も鏨をいれて彫りの深さを深くすることもできます。その際は時間と根気と多少の力が必要になってきますが、スカバーレしたジュエリーは、通常の模様彫りよりも立体感がありますので、金属を彫り崩した彫刻物のような重厚感のある雰囲気となります。
このようにフィレンツェ彫りという技術には無限の可能性があり、それもまた私が魅了されている理由の一つです。
「透かし彫り」とは、金属の素材を透かすようにくり抜いて、繊細なレースの様なデザインに仕上げていく伝統的な技法です。
透かしを入れることででジュエリーの重さも軽くなりますので、見た目の印象だけでなく軽やかに身に着けることができます。
髪の毛程の太さの刃をセッティングした糸鋸で一つ一つの穴を繊細に透かしていきます。透かしの穴はヤスリが入らないくらい小さいので、糸鋸の刃を差し込んでヤスリの様に動かしながら、少しずつ透かしていきます。
フィレンツェジュエリーの代表的な透かしの形はsemino(セミーノ)といって小さな種のような形に透かします。ジュエリー本体のデザインによって位置、大きさ、数などをアレンジしていきます。
またほかの透かしのデザインとしては「nido d’ape」(ニードダアーペ)といってハチの巣のように六角形に透かす技法もあります。こちらは手間と時間が膨大にかかるので、今では手掛ける工房は少なくなってきているそうです。
石留は金属を倒して石を留める技術。日本もヨーロッパも大まかに留める工程には変わりはありませんが使う道具や留めた後の見た目の印象が違います。ヨーロッパの石留は、洋彫り用のタガネで石を金属に留めていきます。石留用のタガネと彫り用のタガネは刃の研ぎ方が微妙に違うのでそれぞれ別々に石留用、彫り用と使い分けています。
石の留め方にはいくつか種類がありますが、treSensi jewelry worksでは主に「覆輪留め」と「彫り留め」で石を留めています。
パイプ状の石座に石をセットし、金属を倒して留める方法。爪留と違って当たりが滑らかで引っ掛かりがありません。
中央のパイプを丸いカッターで石が入るサイズ・深さまで切り欠いていきます。
(写真左)
石をセットして、高さをチェックしちょうどいい深さになるまでカットしていきます。
(写真右)
石がちょうどよい高さになったら、石留用のタガネで爪を倒して石を留めていきます。
(写真左)
最後に倒した爪のエッジを洋彫りタガネで切り欠いて光らせて完成です。
(写真右)
金属に穴をあけて直接石を留めていく方法。主にメレサイズの小さな石は彫り留めで留めています。彫り留めはデザインに自由性が高く、ジュエリーの盤面に対してどのように石をレイアウトするか、バランスよく考える事がとても重要です。
石が入る部分の穴を広げて、爪の部分以外の地金を切り欠いていきます。
(写真左)
爪以外の金属を全てカットすることで、石が浮いた様に見えると同時に金属の照り返しによって石の輝きが増加します。これはヨーロッパの石留の特徴になります。
(写真右)
爪をタガネで起こして石の方向に倒して留めます。
石の方向に寄せた爪をナナコという工具で丸くして完成です。
treSensi jewelry worksではガラスを天然石と同じようなモチーフとして扱い、金属と組み合わせてジュエリーを仕立てています。
ガラスは天然石とはまた違った魅力があり、透明な素材の中にある奥行き感や色味・輝きなど無限の可能性があります。ガラスというと天然石に比べると、人工的な印象を持たれる方もいるかもしれませんが、ガラスは古代のジュエリーにも用いられており、最も古い「宝石」とも言われています。イタリアの技法フィレンツェ彫りとガラス素材と組み合わせることでオリジナリティのある、ここにしかないジュエリーをおつくりしています。
ガラスを形成する技法はランプワークといい、酸素とガスを混合させた2000度前後の炎が出る酸素バーナーを使用して、ガラスを溶かして形を作っていきます。
膨張係数32.5のボロシリケイトガラス(硼珪酸ガラス)と呼ばれるガラスを溶かして制作しています。ボロシリケイトガラスは、もともと理化学の実験器具の素材とされておりその特性は軽く、固くて大変丈夫なものです。その特性ゆえ、装身具には大変適しており特にアメリカを中心として工芸素材として使用されるようになりました
私が初めてフィレンツェ彫りの存在を知ったのは今から15年以上前のことです。
もともとアンティークジュエリーが好きだったのもありフィレンツェ彫りが施された作品を一目見て好きになりいつか自分もこの技術を学びたいと思うようになりました。
イタリアのフィレンツェに留学した時はこのような長年の思いがありましたので毎日新しい技術を学べること、フィレンツェのマエストロのジュエリーへの情熱やアイディアを聞けること、フィレンツェの美しい街の中で生活できること、全てのことに幸せを感じる日々でした。
treSensi jewelry worksのお品物には、すべて一点一点イタリアフィレンツェで学んだ彫りを手彫りでいれています。
フィレンツェで学んでいたとき、マエストロからジュエリーには彫りや石を留めてすべての面をPiena(いっぱい)にしなさいと言われてきました。そうした教えもあり、身に着けたときに見える面全てに彫りや石を留めて、ジュエリーに余白を作らないようにデザインしています。
リングの淵まで彫りでPienaにするのがフィレンツェのジュエリーです。
お品物のオーダーをお受けするときは、お客様のご希望をヒアリングさせて頂きながらデザインをご提案しております。お時間は多少頂きますが、お客様に喜んで頂けるような「世界に一つだけ」のジュエリーをお届けできるように日々制作に励んでおります。
透かし彫りとフィレンツェ彫りを全面に施したイヤリング。結婚式用にセミオーダーにておつくりしました。結婚式が終わった後もお使いになりたいとのこと。お洒落したときの普段も使えるくらいのサイズになるように検討を重ねて作りました。
オーダージュエリーは、身に着ける方のスタイルに合わせてカスタムすることができるのも魅力のひとつです。
筆記体のイニシャルを彫刻したペンダントトップとリング。イニシャルを際立たせる為、盤面はK18ゴールドになっています。treSensi のイニシャルジュエリーをご覧になったお客様からセミオーダーにてご注文頂きました。
通常ラインのイニシャルペンダントは正円なのですが、こちらのペンダントはメダイのように楕円の形、少し大きめのデザインにしてほしいというご希望でした。
昔購入されたダイヤモンドの一粒ペンダント。今ではほとんど身に着けなくなったとのこと。この眠っていたダイヤモンドを使ってイニシャルリングをオーダーしたいとご注文を頂きました。
透かし彫りとフィレンツェ彫りのダイヤモンペンダントとリング。当初ペンダントをオーダー頂き、おそろいで使えるリングも欲しいということで合わせてご注文頂きました。セットでお使い頂けるように、透かしと、彫りの模様を合わせてデザインしました。
バリ島の工芸品、ガムランボールをオマージュしたペンダント。treSensiの名前の由来(イタリア語で3つの感覚という意味)「視覚」「触覚」「聴覚」の内の、「聴覚」を楽しませてくれる音の鳴るジュエリーです。全てK18で作っており、奏でる音色はとても美しいです。ボール本体にはフィレンツェ彫りとヘアラインの彫りを全面に施しています。ヘアラインの輝きが上品で優しい光を放ちます。